説明
人類はその誕生以来、原始的石器や土器等の道具を使い、火や水、木を使い、衣食往を基盤とした物質的生活を豊かにすることを一つの重要課題として、物質文明を築きあげてきた。
それらと平行して、精神的文化、思想、宗教が発達してきたことは言を待たない。
物質文明、科学技術はつい十年ぐらい前までは外へ向いての発達、つまり衣食住、交通、通信の発達であった。
つまり高層建築を建て、放送、テレビ、電話による通信を発達させ、飛行機等による交通を発達させ、地球上のどこででも他の所で生じた事件、経済、政治、人の動きを、居ながらにして知ることができるようになった。
農業技術も発達し、穀類も増産され、暖衣飽食の時代が到来した。
ところがこの十年ぐらいの間に、科学技術はテレビを通じ、画像を通じて、仮想空間をつくり、その中で人間は仮想対象に働きかけ、相互作用できるようになった。仮想空間の中に動的イメージとして入り、他の人びとのイメージと話し、茶を飲み、心の対話ができるようになった。
仮想空間の世界の中には、男が女になって入ることも、逆も可能である。
抑圧された日頃の欲望、願望を仮想世界の中で実現できる。
仮想の対象、たとえば車に触り、動かすことも可能である。
プログラムに従い、仮想空間でたまごからヒヨコを孵し、育てることもできる。
失敗すればまた、たまご→ヒヨコをつくることができる。
仮想世界の中で人間は、人びとや物と相互作用し、その心に大きな影響を受けるようになった。
この仮想空間による人間の心への影響を、心身の健康を促進する、ストレスを解消する、新しい地球文化の創造、地球規模の面接通信世界の創造等に役立てることができれぼ、仮想空間は人類の未来にとってはなはだ有用なものとなるであろう。
しかし、仮想世界での人と人との相互作用、人と物との相互作用は全て、非現実な仮想的なものである。
仮想世界で味のいいご飯を食べても、ただのイメージであって体の養分にはならない。
仮想世界で人殺しをしても人は死ぬわけではない。
現実と仮想現実間に厳然とした区別がある。
現実の創造、改変は容易でない。物の抵抗ははなはだ大きい。
仮想世界では全ての人、対象も、ただのイメージ、論理、想念にすぎない。これは容易に改変できる。
もし、仮想現実の中で多くの時間を費やす青少年が増えて、現実と仮想の区別が曖昧になってきた時、その人は厳しい現実の中では生きられなくなるだろう。
仮想の夢の世界では何事も容易につくり、壊し、生かし、殺すこともできるが、そのようなことは現実では不可能であることをこれからの青少年に知って貰うことが大切であろう。
一九九七年十一月二十三日
本山 博
序文
一 仮想現実と人間
-仮想世界とその活用-
- 仮想現実とは何か
- 定義
- バーチャルリアリティの歴史
- バーチャル技術について
- 人間とは何か
- 人間の心のもつ仮想性
- 身・心・魂より成る人間と、その社会性と個人性
- 仮想性の生じるメカニズム
- 行為 ―― 仮想世界を現実に結びつけるもの
- 魂の次元における仮想世界
- コンピユータによる仮想世界の多様性
- パソコン通信のサイバースペースの世界
- ハビタット
- 臨場感会議システム
- シミュレーション
- コンピユータ仮想世界の特徴
- パソコン通信対話
- ハビタットの仮想世界
- パーソナルコンピュータ・コミュニケーションによる仮想都市の世界
- 仮想世界の限界
- 仮想世界の積極的利用と将来の課題
- 積極的利用
- 将来の課題
二 情報化時代における正しい心のもちかた
―コンピユータによるバーチャルリアリティ(仮想現実)の危機を乗りこえるには―
- 情報とは何か
- 直接的情報
- 間接的情報
- 人間の仮想現実を生み出す能力
- 人間の心の内の仮想現実の世界
- コンピュータによるシミュレーション
- (1)数値シミュレーション
- (2)論理シミュレーション
- (3)環境シミュレーション
- バーチャルリアリティの限界
- バーチャルリアリティの特徴と注意すべき危険性
- 日索的リアリティの崩壊
- バーチャルリアリティと偽宗教
- 宗教間の争いを強化
- バーチャルリアリティにおける恍惚状態と神(イメージ)との一致
- バーチャルリアリティは、欲望、願望の表現
―仮神を生み出す―- 個人の欲望、願望は仮想世界の神をつくる
- 個人をこえた想念は他を支えるように働く
- 超作について
- 超作とはなにか
- 超作ができているかどうかの基準
三 本物とにせもの
-情報世界と仮想現実-
- 科学技術の歴史
- コンピュータによる仮想世界
- 人間の心の働きとその仮想性
- 仮想世界とアストラル世界の特徴と、両者の密接な関係
- 仮想現実の克服